祖父のこと

祖父は、93歳で、頑固で短気で、すぐに威張り散らす人なので、親族の皆から疎まれている。

 

裕福な家庭の長男として生まれ、大切に大切に育てられた。 数学が得意で、東京大学を受験したものの英語が苦手だったので落ち、日本大学の工学部に進学した。

 

祖父は、よく昔の話をする。学生時代は勉強の日々だったこと。戦争が始まると、文系学部の友人たちが招集され、再び会えることはなかったこと。そんなことを話しながら居所寝が気持ちいいな、とよく陽の当たる窓際で、こたつにあたりながら、座椅子に座ってうとうとする。

 

祖父は、認知症が進行している。会いに行くと、あれ?お前は今日は学校は休みか?
と繰り返し聞く。その度に、わたしはもう会社で働いてるんだよ、と説明をする。そうか、月給取りか。立派だな。うんとお金をもらえるんだろう。いいなあ。と、いつも褒めてくれる。

 

祖父は、わたしにはとても優しい。散歩していて、寒いというと、こっちへおいで、その方が寒くないだろう、と風上に立ってくれる。

コンセントを差し込むときは、必ず右手で差しなさい、という。もしも身体に電気が流れたとしても、右手なら心臓に電気が流れる可能性が低くなるからなのだそうだ。いまの時代、そんなことを気にしながらコンセントを差すひとなんてあまりいないと思うけれど、祖父は真面目な顔でわたしにそう忠告する。

 

祖父は、腕時計がすきだ。わたしが腕時計をしていると、いい時計だなあ!高かったろう。15万くらいか?という。わたしが、2万くらいだよ。というと、そんなに安いわけがあるか!と驚く。そして、わたしの腕をぺしっと一回たたく。そして、その会話をすっかり忘れて、一日に三回くらいは同じ腕時計を褒めてくれる。

 

 

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祖父が建築関係の仕事をしていたときに使用していた雲形定規